(ティアラ文庫)「たった二人で世界を裏切る」感想

たった二人で世界を裏切る 犬のような彼 (ティアラ文庫)たった二人で世界を裏切る 犬のような彼 (ティアラ文庫)
著者:丸木 文華
販売元:フランス書院
発売日:2009-07-03
おすすめ度:4.0
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知らないものに触れる時、それを嫌悪するか、面白いと思うかは人それぞれだと思います。
この作品についてですが、自分が男性であるため男性目線でしか読むことができないので、ある種の違和感がどうしてもつきまといそれを拭い去れません。
でも、もうずいぶんと遅い時間なのに、約2時間で読み終わり、眠くない。そうして今感想を書いている。ということは、面白かったと感じているからなのでしょう。

主人公の遙は、自分になついてくる健太からの告白に、苛めたいという気持ちから、OKを出します。そして性的な健太の欲求をはぐらかし、自慰をさせたりしてサディスティックに苛めていきます。
男と女を逆転させたら・・・
ああ、その感情はよくわかる。
そう、僕が感じたある種の違和感というのは、女性がサディスティックな感情を持つ(小説の中だけじゃないよね?)ということ、それが男らしくあれと教えられてきた僕のものの見方、それがために女性に対するステレオタイプな見方ができていたのだと思うけど、その感覚とギャップが生じてしまったから生じたようです。
たぶん、女性は遙の感情の動きに対して、(好悪はあるでしょうけど)違和感はないんじゃないかな。数年前、同窓会で中学時代の友人(女性)が、性的な意味じゃないと思うけど「最近若い男の子を苛めたくなるのよね〜」と言っていたことを思い出したりします。

ただね、この小説の中に書いてあるんだけど、SとMってサドとマゾという意味のほかに、サーバント(召使)とマスター(ご主人様)という意味もあるんだそうですよ。S役って実は奉仕係(召使)なんだってことですけど、それに同意します。男でも女でも、どちらがSでも構わないけれど、相手に対するいたわりがないと、それは単に「虐待」だよね。
実は遙は、最初サディスティックな感覚を持つのだけど、性的嗜好はそうでないように描かれていると思うんですね。
なので、伏せられていたヒミツが明らかになってから、実はそのヒミツを健太は最初から知っていたわけですから、セックスの時の関係は、それ以降変化するのが普通なんじゃないか? そう思ったりします。

でも、そこまで物語が行き着く前に、物語は終わってしまう。
だから、読者はなんだか放り投げられた感覚を少し持ってしまうんじゃないでしょうか?
そう、この作品は面白かったのです。だから、もうひとふんばり、ヒミツを共有した後の二人の関係をもっと掘り下げて欲しかった。
健太編の代わりに、もう少しヒミツを共有し、お互いを貪りあうドロドロとした関係を描いてほしかったなと思います。