[]書評「ミラクルチロル44キロ」

ミラクルチロル44キロ―Aパート・チロルアレンジ (メガミ文庫)ミラクルチロル44キロ―Aパート・チロルアレンジ (メガミ文庫)
著者:木村 航
販売元:学習研究社
発売日:2008-11-28
おすすめ度:4.5
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ミラクルチロル44キロ―Bパート・ミラクルフレーバー (メガミ文庫)ミラクルチロル44キロ―Bパート・ミラクルフレーバー (メガミ文庫)
著者:木村 航
販売元:学習研究社
発売日:2009-01-27
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「いのちの募金にご協力ください。」
死んだ恋人、海部佳名理のために、田丸萬太はいのち募金を始めます。

「私のいのちを、1[?]だけわけてあげます」
?には時間の単位をいれるのですが、あなたなら何と書き入れますか?

作者はこの作品の冒頭から、これを読者に間接的に聞いてきます。
自分の命への執着。
生きているのだもの、それはあって当然のこと。
こんな募金など協力できない。それはきわめて普通な感覚だと思います。
1秒。そうこれくらいならいいかな?って思いますよね。
1時間、1日、1ヶ月、1年・・・

そうです。ちょっと回りくどく説明してしまいましたが、この物語のテーマは「命」なのです。

この物語の主人公(ヒロイン)静つぼみは、いのちの募金に1[生]と書いてしまいます。それは、自分が死んで、本来あるはずだった時間を海部佳名理にあげますという意思の表れです。
どうしてそんなことを書いたか?というのは、物語の進行とともにだんだんと明らかになりますが、つぼみの自分の命への執着心のなさは、彼女の生れ落ちた事情に負うものでした。
そして、いのちの募金が完了する日、2月14日までに、つぼみはこの募金を履行するかどうかを決めなくてはなりません。キャンセルもできるらしいのですね。そうして、つぼみは、自分の命、そして大切なもの守りたいもの、そういったものと向き合う事になるのです。

もし、つぼみの一生を募金してもいいという気持ちにちょっぴりでも同感できる人であれば、この物語はまた違った形で胸に迫ってくると思います。そういった人には、もう一度、自分の命と向き合ってほしいという作者の願いも感じられます。

一方、そんなこと(一生をあげる)と書くなんて、さっぱりわからない、ありえないと思う人、たぶんそんな人の方が多いと思いますが、(そう願いますが)そんな人には、物語の進行とともに次の問いが投げかけられてきます。

(現実にはそんなことはできませんが)「もしあなたの生きている時間を、だれかにあげることができたとして、誰に?、どれくらいの時間?をあげたいと思いますか?」

かけがいのない人を失いたくない、自分が犠牲をはらっても・・・
それが愛というものだと思います。
そして、「そういう人はいますか?」 この物語を読み進めながら、ぼくにはそう作者は問いかけているように感じられたのです。

誰に・・・ 恋人、配偶者、親、兄弟、そして自分の子供・・・ 人によって事情はそれぞれと思いますが、脳裏に思い描く人はだれでしょう?

そして、それに対する主人公(ヒロイン)のつぼみの答えは、衝撃的なものでした。最後はハッピーエンドで終わるのですが、それにとどまらない読後感があります。決していやな気持ちではないのですが、でも軽々しくない気持ちというか・・・
うまく説明できないのですが、たまにはこんな気持ちになってもいいかな? そう思える気がします。Aパート、Bパートあわせて700ページと決して分量は少なくないですが、よい作品だと思います。

今日、帰りがけにコンビニで、ミルクフレーバーのチロルチョコレートを買ってきました。
封をあけて食べるときに、包んでいた銀紙がちょっぴり光った気がしました。