[]書評「オタク成金」

オタク成金 (アフタヌーン新書)オタク成金 (アフタヌーン新書)
著者:あかほり さとる
販売元:講談社
発売日:2009-05
おすすめ度:2.5
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わかつきひかる」先生が紹介して、すぐ書評というのもなんだか「ミーハー」(って単語知ってます?)な感じがするけど、でもこの本、マーケティング観点から読むと面白いかもって、飛びついてしまいました。

はじめに断っておこうと思いますが、この書評は僕の主観に基づいて書きます。つまり僕はこう解釈した!ということを書きます。それは一般的な理解と違うだろうと思います。かなり辛口な部分もあるので、あかほりさとるさんを評価している人には不快な思いをさせるかもしれません。また、あくまでこの本の書評として書いているので、あかほりさとるさんを深く知っているわけではありません。それでも感想を書こうと思っています。

さて、読後の所感の第一は、「この本の主題は複数であり、オムニバスのようなものになっている」ということです。

第一章 「赤堀君」から「あかほりさとる」へ 〜メディアミックスを作り上げた男〜
第二章 オタク成金
この二章は、あかほりさとるさんの自慢話(成功談)を中心に90年代のライトノベルを取り巻く状況の変化(いわゆる短史)を書いています。わざと読者の鼻につくように文を書いていて、それが見え透いています。でもそれ、つまり「見え透く」ところも作為じゃないかと思います。その演出が本全体の魅力を増したか、つまり成功したかというと微妙な感じなんですけどね。
でも、書いてあることは、とても常識的、良識的なことです。鼻につく演出は取り除いてニュートラルな気持ちで読むべきです。

第三章 売れる作家になるために 〜あかほりさとるの作家論〜
これは、あかほりさとるさんの良心です。今自信を持って言えるのは「このこと」だけなのかもしれません。ただ、かつて「成功」した人の言葉です。重みがないはずがない。この人ちょっとシャイなんでしょう。第一、二章をおちゃらけていなければ、もっと三章生きたのに。
でも再度言いますが、この章は彼の良心です。よいと思います。
(だからと言って、無条件に受け入れるのはどんな良書でもだめだと思いますが・・・)

第四章 生き残りたければ成金になれ 〜あかほりさとるが見るオタク業界の今後〜
この章があかほりさとるさんがこの本で一番言いたかったことでしょう。でも僕とは見解が異なります。(わりと似た課題意識もっているのですけどね)
この件は、読後の所感の第二として、次に詳述します。

読後の所感の第二は、あかほりさとるさんが自身が頂点から落ちたことに対する理由付けが、僕にはしっくりこないということです。
この本にあげられている理由は主に次の点です。(P80〜83)
1.売れっ子になって、数多くの作品を同時平行した。
2.書くもののクオリティが落ちる。ファンが飽きる。
3.競争相手が増え、先行者利益がなくなった。

失敗した理由としては十分だと思うのですが、なぜ彼が頂点に立ったのかという分析が欠けている、その反動としての凋落なのに・・・ と僕は思うわけです。

そもそも彼はなぜ頂点に立ったのでしょうか?
作品のクオリティは、他にすごい人がいると言っていますし、それが理由ではないでしょう。この本では数を書いて知名度を上げてから、勝負したと書いています。でも、それって頂点に立つほど絶対的なメソッドなのでしょうか?

僕は彼の成功は、作家業にビジネス(マーケティング)を持ち込んだからと考えています。ビジネスの基本は、現在持つ競争力を元に、新たな収益源となる分野を獲得することにあると思います。あかほりさんの場合、ライトノベルの作家としての収入のほか、メディアミックスという新たなビジネスで、コミック化のシナリオ、ゲームCDの脚本と同じ創作物で3倍の利益をもたらす、ビジネスモデルを作った。だから頂点にたったのだと考えます。

凋落の原因は、その反対。作家がメディアミックスを手がけるビジネスモデルが崩れたからだと思います。これは、ビジネスの世界では頻繁に起こる現象だと思います。新たなビジネスモデルの出現は、競争相手を呼び寄せ、激しい競争の結果、淘汰とビジネス領域の分化、深化が発生することが多い。つまり、ライトノベルとメディアミックスのマーケットは、一人で全部できるほど単純なマーケットでなくなり、専門に分化しチームとして立ち向かわねば淘汰されるマーケットに進化、拡大したのだ解釈すべきと考えています。

だから、古いビジネスモデルのままのあかほりさんの凋落は必然だった。たしかに、作品の品質には問題があったのでしょう。それは凋落を早める効果があったとは思いますが、それが全てでない。そう思うのです。
あかほりさんは、その危機を初心に戻る、つまり最初のビジネスモデルに戻ることで乗り越えます。真に信頼できるパートナー(編集者)に恵まれたことも幸運ですが、そういった逆境の中で余分なものを捨て、原点に戻ることができたあかほりさんは、やはり非凡だと思います。

しかし、上記に書いた理由で、僕は第4章については、かなり違った見方をしています。第4章の所感については、次のエントリで別の本の書評とともに書きたいと思います。

最後に、僕は評論家然として、ずいぶんと心ないことを書き連ねました。
自分の成したことなど、あかほりさんの業績の足元どころか、影さえ見えない吹けば飛ぶ存在なくせに、です。でも、このような書籍を表したのは、こういった批判もあえて受けるという姿勢であったからではないかと、あかほりさんの寛容性にただすがって感想を書きました。

この文章を読んで不快になられた方、真に申し訳ありませんでした。