[]書評「オタク成金」(その3)

ずいぶん長くなってしまいました。今日でこの書評も終わりにします。
オタク成金 (アフタヌーン新書)オタク成金 (アフタヌーン新書)
著者:あかほり さとる
販売元:講談社
発売日:2009-05
おすすめ度:2.5
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「“萌え”イノベーションが進行中だと僕は思うのですけどね。

萌えイノベーションは、僕が作った造語です。小説とか、コミックとかにかかわらず、作られていくコンテンツに「萌え」要素が侵食していく変化のことを、とりあえず命名してみました。
そういえば、ライトノベルの定義って、まだよく定まっていないですよね。実は僕は、ライトノベルジュブナイルポルノも頭の中ではジャンル一緒になっていて、それを「萌えノベル」と考えています。「萌えノベル」の定義は簡単。小説の中に「萌え」要素が含まれていて、それが主体となっているもののこと。これまで、「萌えノベル」は、比較的順調に成長してきました。しかし、ここにきてその成長にもかげりがでているようにも見えます。

僕は、いわゆるキャズムにはまっていると思うのです。

キャズムの話をする前に、「イノベーションの普及」について書いておかないといけないと思います。

イノベーションの普及イノベーションの普及
著者:エベレット・ロジャーズ
販売元:翔泳社
発売日:2007-10-17
おすすめ度:5.0
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この本の中で、ロジャーズさんは、消費者の商品購入に対する態度を新しい商品に対する購入の早い順から、5つに分類しました。
1.イノベーター=革新的採用者(2.5%)
2.アーリー・ アダプター=初期少数採用者(13.5%)
3.アーリー・マジョリティ=初期多数採用者(34%)
4.レイト・マジョリティ=後期多数採用者 (34%)
5.ラガード=伝統主義者(または採用遅滞者)(16%)

こちらをご参考ください。
イノベーター理論(1)の前半(後半はキャズムの話)


ロジャーズさんの「イノベーションの普及」の書籍の中では、統計的にいって上位16%がその変化を受け入れると、ブレイクスルーが起こるということを言っており、そのため、アーリーアダプター層への浸透が重要といっています。

それに対し、ムーアさんは「キャズム」という考え方を唱えました。
イノベーターとアーリー・アダプターで構成する初期市場と、アーリー・マジョリティとレイト・マジョリティによって構成するメインストリーム市場のあいだには、簡単には超えられない「キャズム」(深いミゾ)があるという理論です。

さきほど紹介したこちらの後半を参考にしてください。
イノベーター理論(1)の後半


キャズムキャズム
著者:ジェフリー・ムーア
販売元:翔泳社
発売日:2002-01-23
おすすめ度:4.5
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「萌えノベル」市場は、1990年代のオタク対象の時代(オタクとは、キャズム理論でいうイノベーターに相当します)から成長を続け、2000年代になってからアーリーアダプターが受け入れ、さらに成長を続けたとみています。しかしこれが2008年ごろになって、初期市場に飽和感がでてきた。おりしもアメリカ発の金融危機に伴う景気下降が、リスク性資金の供給を絞らせ、その結果アニメのような投資資金を必要とするものが減った。
経済的視点からみると、このように見えるのです。

しかし、僕は今キャズムにはまり込んでいるとしても、長期的視点でみると楽観的であったりします。それは、「萌えノベル」が、若年層マーケットで支持されているというマーケット上の優位性があるからです。
ちょうど漫画が隆盛を極めようとする80年代、当時子供だった人は成長し(しっかりと中年になったよ!ふん!)、今でもマンガを読んでいる人は多い。
30年の時間をかけて、マンガの市場は膨らみ続けました。それと同じ事が起こるに違いないと思うわけです。

しかし、一方、作者さんたちをはじめ、作り手の人たちは、30年なんて!というと思います。
ただ、漫画雑誌が80年代にたどった道は参考になるはずと思います。ビッグコミックスピリッツヤングサンデー、モーニングなどなど。ちょうどそのころに創刊されたり、週刊化された記憶があります。こうやって漫画で育った少年たちが成長したのちもマンガを読み続けられるよう、その需要に応える雑誌ができたわけです。「萌えノベル」も、現在のものを卒業しようとする人向けになにか対応し、囲い込む必要があるでしょう。

次の動きは、自然と作者さんたちが行っていることを助けることだと思います。

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上記は「萌え化」が始まる前の小説のジャンルを表しています。
そこに「萌え化」がはじまったわけです。今はこんな感じでしょうか。

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作者さんたちは、これまで人がやっていないことを探して、どんどん「萌え化」の対象を広げています。また、これまで「萌え」とは関係ないものを書いていた人たちも、「萌え」を意識するようになっています。
たとえば、僕が最近買った本にこんなものがあります。

数学ガール 上 (MFコミックス フラッパーシリーズ)数学ガール 上 (MFコミックス フラッパーシリーズ)
著者:結城 浩
販売元:メディアファクトリー
発売日:2008-11-22
おすすめ度:3.5
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「萌え」マンガのような、でもマジメな数学のお話だったりするものです。

作家さんたちは、自分たちの生き残りをかけて、新しいジャンルを開拓しているのが現状と思います。新しいジャンルで「萌えノベル」ができたら、今まで「萌えノベル」を読まなかった人たちも読むようになるかもしれません。
たとえば、「萌え経済小説」とか「萌え歴史小説」なんて、ちょっと若いビジネスマンにもうけそうな感じがありません?

あとは、そういった潜在的なニードを持つ人たちへ、どうPRするかという作者さんの問題というより、売り方の問題が残っているのだと思います。
それが解決すれば、その作者さんが新たに獲得した読者層と、それまで持っていた読者層を融合していくと、その作者さんの次の作品を初動で購入する読者の厚みが増すのではないでしょうか。

たぶん、こういった取り組みが、今のキャズムを乗り越える方策のように感じます。作者というブランドを育て、新たな読者層を開拓し、囲い込む。作り手と売り手の二人三脚が今求められている事なのではないかと思います。

業界の外にいる一読者が、ナマイキなことを申しまして申し訳なく思います。
ただ一読者として思うのは、作者さんたちが、生きるためだけであったり、苦し紛れに作る作品など読みたくはないのです。
僕は、その作者の「夢」のエッセンスがぎゅっと詰まった作品を読みたい。
そのためには、こういった一見成長の止まったときこそ、作者さんたちが「夢」をもてる戦略を示してあげられる、そういった売り手(出版社、編集者など)が必要とされているのではないでしょうか。

それでは、今日はこれで寝ます。おやすみなさい。