[]出版総崩れの中で独り勝ちの角川、文庫で圧倒的な利益を稼ぐ(東洋経済online)を読んで(上)

9/17の東洋経済onlineの記事に、「出版総崩れの中で独り勝ちの角川、文庫で圧倒的な利益を稼ぐ」というものがありました。
そもそも僕がライトノベルを読み始めたのは、「涼宮ハルヒの憂鬱」のヒットを見て、マーケティングに興味を持ったからだったのですが、やはり出版業というビジネスの観点から見てもライトノベルの重要性はますます高まっているようです。

まずは記事へのリンクを掲示しております。
「出版総崩れの中で独り勝ちの角川、文庫で圧倒的な利益を稼ぐ」


要約です。(そのくせ、かなり長くなりましたが・・・)

1.大手の出版社が軒並み2008年度赤字を増加させた一方、角川グループは黒字を確保している。一人勝ちの様相を示した。
2.大手の出版社は出版部門の赤字を雑誌部門の黒字で埋めるという構造だった。角川は、出版部門も黒字であり、その原動力となっているのは、「ライトノベル」だ。
3.「ライトノベル」はあたりはずれが少ない。それを反映して角川グループの返本率は、業界平均に比べ8%以上も低い。
4.「ライトノベル」はあたりはずれが少ないとはいえ、力のあるコンテンツを生み出してこその戦略だ。
5.角川はグループで17ブランドの文庫本を出版している。文庫本のシェアではトップだ。特にライトノベル分野では、8割のシェアを握る。「角川スニーカー文庫」「電撃文庫」などグループの4ブランドがしのぎを削っており、いわば、グループ内の編集者同士がライバル関係になる。
6.一方、販売面は、角川グループパブリッシングが一手に担い、角川出版販売が店頭での販促活動を統一して行っている。
7.販売部門の統合は合理化効果以上に、グループ内各社の販売データを自由に使えるメリットをもたらす。
8.出版業界の尻すぼみはほぼ確実な中で、この収益構造が次世代を約束する保証はどこにもない。では、どうするか。方策は二つ。
9.第一に、今あるコンテンツを電子化し、ケータイや、将来は電子ブックの形でキンドル(アマゾン)などに載せるという道だ。
10.第二は、一つのコンテンツを複数メディアに展開する。マルチコンテンツ化することで収益の最大化を図ることだ。
11.こうしたマルチコンテンツ化ができるのも、グループ内に専門の会社を抱えているからだ。マルチメディア化は、すべてグループ内で完結できる。
12.角川は自らのコンテンツのユニークさを見極め、業界の垣根にとらわれず、横断的にマーケティングしている点に強みがある。
13.そういった強みも、継続的に“玉”が出なければ、成長はおぼつかない。やはりポイントは、上流の出版の分野だ。
14.書籍や雑誌の編集者にとどまるのではなく、映像化やネット化まで含めて横断的に考えられる編集者が必要になる。


出版業界の方や、興味を持っている人にとっては、特に目新しい情報はないのですけどね。メディアミックスの話なんて、将来の話ではなく、ここ10年の収益の柱であって、逆に今は曲がり角にきているようにも思えます。そういった面では、この記事は認識が古いといえるのかもしれません。
しかし、これだけ出版社間に大きく業績差がでると、いわゆる投資家(機関投資家やアナリストなども)も、着目するようになると思います。そういった観点で、東洋経済が書いたということには意味があるのかな。
少なくとも注目はされていますよね。9/20現在の東洋経済の記事のアクセスランキングでもトップでしたしね。


そういったわけで、今日は、上記の要約で太字にした部分を中心に考えてみたいなと思います。


僕が東洋経済の記事で一番注目した点は、角川グループが販売部門をひとつにまとめていることです。記事で指摘している売上分析データの共有にとどまらず、グループ全体の営業をまとめることによる販売力の強化は侮れないものがあるでしょう。
例えば、自動車のように商品がそれぞれの系列の販売網によって販売される商品であれば、グループの販社をまとめることは、販社間の競争がなくなり営業力をかえって下げる事になる場合が多いように思います。しかし、書籍・雑誌という商品は、書店(ネット書店含む)という小売を経て消費者に届きます。書店は複数の出版社の書籍を扱うので、グループの販売を一本化することによって、相対的に書店に対して強い影響力を持つようになるはずです。特約店等の仕組みはこういった強い営業力によって成り立っていると思います。


さて、出版社のビジネスについて、もう少し深く考えていきたいのですが、その前に、出版社と関連業界の構造を鳥瞰してみたいと思います。
一言で言うと、僕は日本の出版と関連業界というのは、いわば砂時計のような構造だなと理解しています。


砂時計の上のふくらみにあたるのが出版社です。日本には約4500社程度あるそうです。売上ランキングはこちらをご覧ください。上位の2社と7位、10位はいわゆる総合出版と違い、かなり特色を持った会社ですので、いわゆるイメージ通りの出版社のランキングとしてはそれらを除いた順位でしょう。
(1,2,7,10位を除いた順位)
1位:角川グループホールディングス
2位:小学館
3位:講談社
4位:集英社
5位:学習研究社
6位:日経BP
1位の角川グループホールディングスの2009年度売上は1416億円です。

それに対して砂時計の下のふくらみが書店です。
全国の書店の数は・・・ うーんよくわかりません。とてもたくさんあるとしかわかりません。そして、売上ランキングもよくわからないのです。
いわゆるイメージ通りの書店であれば、ランキングはわかります。
こんな感じです。(こちらから転載
1位:紀伊國屋書店
2位:丸善
3位:有隣堂
4位:文教堂グループホールディングス
5位:ジュンク堂書店
1位の紀伊國屋書店の2008年度の売上は1198億円です。
実は、たぶん雑誌等の売上が中心だと思われますが、コンビニ、特にセブンイレブンは、紀伊國屋書店を遙かに上回る売上をあげていますし、アマゾンを筆頭としたネット書店は、売上がよくわかりません。
また、TSUTAYAも、売上を伸ばしていて上記の3〜4位ぐらいの売上があがっているようです。

砂時計の真ん中のくびれは、取次ぎという出版独自のいわば本の問屋にあたる会社です。100社あまりと推定されていて、業界団体の日本出版取次協会の加盟会社数は2004年現在33社だそうです。(Wikipedia)
1位:日本出版販売
2位:トーハン
3位:大阪屋
4位:栗田出版販売
時に、上位2社を合計すると7〜8割のシェアを持ちます。日本出版販売の2009年度の売上は6327億円です。

(おわび)1位2位の順位に間違いがありました。修正いたしました。申し訳ありません。


いつのまにか、ものすごく長いエントリとなってしまいました。まだまだ書きたいことの半分も書いていませんが、エントリをわけます。
残りはあした以降に・・・