(HJ文庫)「友だちの作り方」感想

友だちの作り方 (HJ文庫 あ 5-1-1)友だちの作り方 (HJ文庫 あ 5-1-1)
著者:愛洲 かりみ
販売元:ホビージャパン
発売日:2009-10-01
おすすめ度:4.5
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第3回ノベルジャパン大賞で、特別賞を受賞した作品です。
たぶん・・・ この作者は新人さんなんでしょう。
なんで、たぶんと書いたかというと、新人さんらしい瑞々しい、でも少しゴツゴツしたというか、そんな感じがなくてですね、とても「肩から力が抜けている」そういう自然体な感覚を受けたからです。
悪い意味ではありません。
きっちりと書かれている作品だと思いますし、最初の作品がそういった自然体なものというのはすごいなと思いました。

伏線も、はっきりとそれだとわかるように書いています。あとで読み直すと何を書いているのかよくわかります。でも・・・ 僕はにぶいのでしょうねぇ。一度目はそこに書いていること、伏線ですから行間というか暗喩していることも含めてなんですが、何を言おうとしているのか、わからなかったのですよね。
うまい書き方だと思います。

物語は、引っ込み思案でアガリ性の少女、椛(もみじ)が主人公です。
椛には、生まれてこの方、友だちがいませんでした。
そんなわけで、椛はいつも屋上でひとりぼっちでお弁当を食べるのですが、ある日先客がいました。その先客とのかかわりから、椛がだんだんと変わっていく、そんな作品です。

椛は、自分に自信が持てないようです。最後に「そんな人物なのになぜ自信が持てないの?」という事実がわかりますが、それでも自信がもてないのです。
とてもきれいだったり、頭がよかったりして、近寄りがたい雰囲気を身にまとう人っていますよね。その人は自信たっぷりなのでしょうか? 普通そう思いますよね。でも、そうじゃなくて、その人が自分が人から疎ましく思われていて人が近づいてこないのだと思い込んでいたら。
その人なりの苦しみもあるかもしれないのです。

僕はこういった、平凡な学生生活を丁寧に描いた作品が好きです。
そして、こういった作品を読んでいると、時々自分の学生生活について思い出すことがあります。甘酸っぱい思いもありますが、どちらかというとちくりと心が痛む感覚とともに。
この作品も、読んでいる最中に思い出してしまいました。もう、何十年かたっているのにね。この歳になってもセンチメンタルなのも、ちょっと問題だなあと恥ずかしいのですが。

僕は自分でいうのもなんなのですが、よい意味でも悪い意味でも、(自分の中学・高校の中では)目立つ学生でした。数十年ぶりの同窓会で、当時の友人たちにあって、当時は近寄りがたく感じたといわれることも多いのですが、友だち関係づくりは苦手で、だから友人は少なかった。
そんなわけで、椛の気持ちに自分の当時の思い出が重なっていくのです。

そして・・・高校を卒業して進学してからは・・・
僕は機械オタクで(笑)。当時、最先端の機械といえば、コンピューターだったのですが、買って家にこもってプログラムなどしているなどと人に知れると、ザザーっと回りが引いていく。まあ、文系の大学だったのがいかんといえばそうなんですけどね。合コンで趣味がプログラムなどと知れると、女の子がしーんとしますし。気がつくと、近くに女の子いなくなるんですよね。そしてその後は、あぶれた男同士で飲むはめに(笑)
だから、◎◎さん(登場人物)の気持ちもわかります。自分によく重なるからなのですが。

もう、カビが生えそうな昔の思い出ですね。
回りからうけるマイナスの感情には、いい意味で鈍感になったほうがいいかもしれません。
まあ、社会に出てそんなこともいってられなくなったので、ずいぶんと変えたのですけどもね。でも時々こんなナイーブな気持ちに戻ってしまいます。

もう一度いいます。
僕は、こんな何の変哲も無い普通の学校生活を丁寧に描いた作品がとても好きです。
そんな作品を読むと、ちくりと心が痛い時もあったけれど、今から思えばとても楽しかった学生生活を、ちょっとの間思い出すからです。
ええ、中学や高校、大学という時期は、いろんな思い出が残りますよね。とても貴重な時間だと思います。