(ティアラ文庫)「華の皇宮物語 帝の花嫁」感想

華の皇宮物語 帝の花嫁 (ティアラ文庫)華の皇宮物語 帝の花嫁 (ティアラ文庫)
著者:剛 しいら
販売元:フランス書院
発売日:2009-11-05
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もっと早く感想を書くつもりだったのですが、諸事情で遅くなりました。

「華の皇宮物語 帝の花嫁」は、ティアラ文庫初のシリーズ物といえます。
前作「華の皇宮物語」では、脇役だった皇帝秀亥をヒーロー役としています。
前作から引き続き登場するのは、ヒロイン嶺花の女官である桃花とその恋人の白陽春だけです。

しかし一方、新たな登場人物として、魅力的なキャラも。
皇帝付の宦官、美貌を誇る緑宝明、そして女だてらに勇ましい後宮警備隊隊長である白秀麗。

さらに、嶺花と争う3人の皇妃。
いやあ、盛りだくさん!

剛さんはさすがにベテランだなと思われる安定した筆致で、物語がすすんでいきます。
上記の人物を配置したら、まず期待するのは、皇帝の寵愛を巡る女の戦いでしょう。そしてそこに渦巻く嫉妬と中傷。
ええ、そのあたりもよく心得ていらっしゃってて、皇帝の寵愛をうけつつある(そうな)嶺花に対する3人連合の構図が物語早々に現れてきます。

そこに起こる嶺花の小女の毒殺事件。

それでもって、話は大きく転回し、3人の皇妃の物語内でのプレゼンスは一挙にさがり、過去の人扱いになってしまうあたり、少しあっさりした感があるかな。
もっとドロドロとした愛憎劇をちょっと期待していただけに、残念だったかもしれません。

毒殺の真犯人もなんとなくすぐにわかってしまいますし、そしてクライマックスは、宝明と秀麗が、賊と戦うあたりになるのかな?
?をつけざるをえなかったのは、クライマックスはやはりヒーローとヒロインの話であってほしいという思いがあるからです。
この作品であれば、秀亥と嶺花の関係にもっとスポットをあててほしかったと思います。でも、後半はどちらかというと、宝明と秀麗の関係の方が印象に残るのです。

ベテラン作家さんの作品らしく、手堅くまとめられていますが、この作品は、ちょっと残念だったと申し上げざるをえないかなと思います。
シリーズ化を意識しすぎたという評価です。
次作の伏線と思われる事項を列挙すると、たぶん片手で終わらない。
それだけ種まきされている。
しかし、この作品そのもののストーリーの種はせっかく発芽し、勢いよく育ち始めたはずだったのに、別な種も発芽し、それぞれが競合し、まだ未熟な状態で刈り取られた。そんな印象を免れません。

もっとも・・・
この作品は、シリーズの途中のちょっとした逸話なのかもしれません。
その場合は、シリーズ全体を通して読まないと、本当の評価はできないのでしょう。
ちょっと辛口になりましたが、次の作品があってはじめてこの作品の評価ができるのだろうと申し上げて、この作品の感想としたいと思います。







(追記)
わかつきひかる」さんの「王子が恋する女神姫〜薔薇と陰謀の舞踏会〜」の記事(感想など)を書いています。ページはこちらです。
また、そちらには、これまで書いた既刊のティアラ文庫の感想へのリンクもはっています。
ぜひご覧ください。