(ティアラ文庫)「白衣と意外性の研究」感想
白衣と意外性の研究 (ティアラ文庫)
著者:桃野 ゆかこ
販売元:フランス書院
発売日:2009-11-05
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ふしぎな感覚をもたらす小説だと思います。
ストーリーがうまいかと聞かれれば、日常をきりとっただけでストーリーらしきものはないなと感じます。
表現がうまいかと聞かれれば、ポルノは表現こそ命と思いますが、ちょっと文面が硬くてまだまだ精進が必要と申し上げたいと思います。
でも、なんでしょう。
特に最初の「白衣と意外性の研究」という短編は、瑞々しい色香があるのです。僕は男性なのですが、十分興奮しました。
それはなぜだったんでしょうか?
女性に飲ませると、身体だけがいうことを利かず、しかし皮膚感覚は敏感に、そして意識はしっかりとしている、そんな状態をつくりだす薬は、男だったら全能をかけて手に入れたい万能で貴重な媚薬だと思います。そしてそれを利用して、好きな女とヤッちゃう。そんな「ありえない」はずのシチュエーションを、否定ではなく、一度でいいからしてみたいと思ってしまったのです。
(あ、ぼく男なので、蓮司くんの立場でということですけどね。エロ親父となんといわれようと、まあそういったもんです。男ってヤツは)
なんだろ。それは僕のツボということ?
自由を奪って、好きなようにしちゃう。
相手に合意がなければ、それはレイプなんだけど・・・
僕はレイプもの(陵辱もの、鬼畜ものという男性向けポルノのいちジャンルなのですが)ちょっと苦手ななので、その性癖はないと思うのですよね。
レイプしたいわけじゃない、でもこのシチュエーションはうらやましく思う。
この感覚に戸惑っています。
あとがきから抜粋します。
私が書いているのは「乙女チック官能小説」という(自分で勝手に名付けた)ジャンルが主で、「男女カップリング甘々和姦」がコンセプトです。たまに無理矢理なコトがあっても愛が前提、エロスがメインだけど恋心を忘れずに。
和姦なんだ・・・
これはレイプじゃないんだ・・・
どこに差があるの?
実は僕にもそれくらいはわかります。
その差は、みなもさんの心にあります。
みなもさんは、蓮司くんが好きになるのですね。身体からはじまった恋ですが、それもまた恋。だから最初は少々強引であっても、和姦なんですね。
しかし、実のところ僕は男だから、みなもさんがなぜ蓮司くんのことを好きになったかがよくわからないのです。
だから、和姦なのかレイプなのか区別がつかなかった・・・
女性の読者さんは、きっと蓮司くんのことを許せる人とそうでない人に分かれるのではないかと感じています。許せる人にはこれはレイプじゃない。だからここに描かれた行為は、甘くうっとりとするエッチな出来事に思えるのではないでしょうか。
だとすれば・・・
この作品を気に入りますよね。
このギリギリ感。
それが「白衣と意外性の研究」という短編の瑞々しい理由であろうと思います。
それを高く評価します。
最後に少し評価できないポイントを指摘しておきたいと思います。
このストーリーは、その後蓮司くんとみなもさんの甘々でエロい関係を複数の短編でつづっていきますが、だんだんと飽きてきました。
セックスは、実はだれがやってもわりと似たような行為になると思います。
だから、行為がエスカレートしない限り、だんだんと同じような描写が続くようになります。
そういった観点では、回数を重ねるごとにますますいやらしくなる・・・ そんな表現ができるようになると、もっといいのではないかと思います。
行為描写そのものは、男性向けの方が(歴史のぶん)すごいと思いますから、そうでない描写、例えば高まっていく女性の心理描写や皮膚感覚など、そういった女性ならではの描写ができるようになってほしい、そう感じました。
いずれにせよ、女性向けのポルノというジャンルは、まだそんなに専門家がいるわけではないでしょうから、今後に期待しています。
(追記)
「わかつきひかる」さんの「王子が恋する女神姫〜薔薇と陰謀の舞踏会〜」の記事(感想など)を書いています。ページはこちらです。
また、そちらには、これまで書いた既刊のティアラ文庫の感想へのリンクもはっています。
ぜひご覧ください。