「狼と香辛料」を読みながら自問自答する。

狼と香辛料 (電撃文庫)狼と香辛料 (電撃文庫)
著者:支倉 凍砂
販売元:メディアワークス
発売日:2006-02
おすすめ度:4.5
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商売を扱った小説を読むと、なんだか過去の出来事がフラッシュバックすることがあるんですよね。それもね、大抵失敗したことだったりするから始末が悪い。そんなわけで、ちょっとこの小説もなんとなく敬遠していたのですが・・・

ところで私事ですが、この2週間はこれまでとは全く違う雲行きで信じがたいことが連続しています。えーと、今日もひとつ契約がまとまりましたー (^^)v
それにもうひとつ提案中のものも、なんとなくいい雰囲気だし、なんだか盆と正月とクリスマスが一緒に来た感覚!
なーんてことを言っていると、すぐ足元すくわれるんだけどね。そういえば今日ドバイの政府系企業の信用不安からドル安円高にふれて、大幅株安・・・
頼むから、せっかく持ち直しつつある景気がさらに底割れなんてならないでね。
まあ、そんなことはおいておいて、最近とっても仕事的には気分がよくって、じゃあ、ちょっと敬遠してきた「狼と香辛料」でも読んでみようかなということで読んでみました。
ちょうど、わかつきひかるさんの「ラッキーメイド天くん」が経済を扱ってましたしね。経済つながりということで・・・

狼と香辛料」は人気作品ですからね。いまさら書評でもないでしょう。ということで、読んでいる間にちょっとハマったところを中心に、とりとめのない話を書いていこうかと思います。


行商人ロレンスは、懇意にしていたパスロエ村の秋祭りに立ち寄る。そしてそこで不思議な少女を拾う。少女の名はホロ。神と祭られた狼の化身。ロレンスは生まれ故郷へ帰りたいというホロとともに、行商の旅に出る。
そして、ロレンス一行は、土砂降りの雨に降られて雨宿りした教会で、駆け出しの行商人ゼーレンと出会う。

「へへ、そう言ってもらえると安心だ。あ、あっしの名前はぜーレンと申します。お察しのとおり駆け出しの行商人です。よろしくどうぞ」
昔、ロレンスも駆け出しの頃に顔見知りの行商人を作りたくてやたら滅多ら話しかけたものだが、皆の対応が冷たいことに腹を立てたりした。けれど、今こうやって駆け出しの者から話しかけられる立場になると冷たいあしらいをされたのもよくわかる。(p.83)

「冷たいあしらいか。会社の規模が小さくて下請けだとよくそうされるなあ。慣れたか? いや慣れちゃいけないって思っている。我慢できるか? そりゃ仕事もらうためならね。我慢もするさ。ただ強い立場を笠に着て高圧的な態度をとる人物もいる。過去2回そういったヤツと取引した。結果は悲惨だった。社員に病人はでるは、赤字になるは。そんなヤツを目の前にしたら、まずは冷静に。びーくーる、びーくーる。笑顔を絶やさず、人柄を確かめる。そしてどんなに仕事が欲しくても、一旦がまんして帰ろう。会社に帰ったら、幹部社員に諮ってみる。決断はそれからだ」


ロレンスは、ゼーレンの持ちかけた怪しげな取引をうけるかどうか迷う。そこでホロに相談するのだが・・・

「もし、わっちがいなかったら、ぬしはどう判断するよ」
「うむ……嘘か誠かその判断は保留にし、とりあえずゼーレンの話を呑んだように振舞うな」
「それはなぜか」
「誠であればそのまま儲けに乗ればよく、嘘であれば誰かが何かを企んでいるということだから、そういう時は、注意深く裏を突けば大抵が儲け話になるはずだからだ」
「うん、じゃあ、わっちがぬしのそばにいて、あの話は嘘じゃと教えたら?」
「ん?」
そこで何か化かされているような気がして、ようやく気がついた。
「……あ」
「うふ。ぬしは始めから何も迷うことなどありんせん。どの道乗った振りをするんじゃろ」 (p.92)

「リスクは富の源泉だものな。リスクを恐れていては、商売なんてできないんだ。賞賛すべきビジネスパーソンは、リスクテイカーだ。でもそれは一か八かのばくちとは違うんだよな。リスクテイクするとは、リスクを管理すること。将来起こる可能性のある良からぬ事がどんなものか想定し、それが起こる確率がどれくらいか洗い上げておく事だ。そしてそのリスクが顕在化したら、どのように対処するか策を練っておき、その際賢明な対処を行っても発生する損害額はどれくらいか覚悟しておく。あとは、観察だ。小さな変化を見逃さず、大きく鳥瞰する。そうすれば、そんなにひどいことにはならない。そうだろ、ロレンス!」
「でも、この取引は、ゼロサムゲームだぞ。ロレンス! ゼロサムゲームは一勝一敗する。できればウィンウィンゲームの方が利益が多くなると思うんだがな。でもまあ世の中にはウィンウィンゲームの顔をしたゼロサムゲームがごろごろ転がっているから、最初からゼロサムゲームだって分かっている方がまだましだったりするけどな」


ロレンスは、ゼーレンの持ちかけた取引をうけ、約束した町に向かう。
そして再会。ゼーレンは、トレニー銀貨が将来銀の含有量を増やすとロレンスに伝えるのだった。
しかし、それは嘘だった。ロレンスたちは、徐々にトレニー銀貨の銀の含有量が下がっている事をつかむ。

「銀貨の純度が少しずつでも下がるということは、よくあることなのかや?」 (p.167)

「ふーん、これは貨幣の先物取引の問題じゃないか。将来円安期待がある。しかもそれはまだ誰も知らない。いいねえ、この状況。今だったら話は簡単だよな。まず円を空売りしておいて、円の値下がりを待てばいいんだものな。でもこの物語内には、先物市場も空売りも存在しないよなあ。じゃあ、どうするんだ? 悪貨は良貨を駆逐するっていうし、いずれ含有量の多いトレニー銀貨は出回らなくなるよな。そして含有量の低いものだけが流通し、トレニー銀貨に対して物の値段が高くなる。つまりインフレが起こる。じゃあ、今のうちに価値があって腐らないものを買っておくといいかも。たとえば香辛料とか・・・」


ロレンスは、ミローネ商会に話を持ちかける。ミローネ商会は、ロレンスの話にのり、トレニー銀貨を買い集める。
そこに起こる襲撃。ロレンスはかろうじてミローネ商会に身をよせるが、ロレンスを逃がすためにホロは敵方に捕まってしまう。

ロレンスは頭を巡らせてこの八方塞がりの状況を打開する妙案を見つけるしかなかった。
「思いつく限りでは」
ロレンスは口火を切った。
「向こうが告発する前に、こちらの商会がトレニー銀貨の交渉を終わらせ、その最大の利益を交渉のカードにする、というのがありますが」
ロレンスのその言葉に、マールハイトが目を見開く。ロレンスがホロを失いたくないように、マールハイト達ミローネ商会も、その最大の利益を失いたくないのだ。 (p.237-238)

「困難な状況になったときほど、人間性がでるものだ。あきらめず、歯を食いしばり、知恵と汗を出す。そうなると、会社の壁を超えて信頼関係ができてくる。一心同体というと気持ち悪いが、一蓮托生の関係だな。真の信頼関係の大元には、互いへの尊敬があるんだ。ロレンスは、マールハイトから尊敬を得たんだな。すばらしい」
「交渉事が有利に運べるかどうかを判断する時に、僕は時の利益を考える。つまり、結論を出さずにのらりくらりはぐらかし時間稼ぎしたとき、それは自分にとって有利か、相手にとって有利かということを判断するんだ。自分にとって有利に働く場合は、どんなに相手がタフなネゴシエイターでも、こっちが馬鹿な振りをして結論を出さなければ、いつか相手が折れる。とんちんかんなやりとりをすればするほど、相手が困るんだ。つまりとても有利だということ。その逆はとても厳しい。だから、このシチュエーションはとても厳しい。時間だ。すべては時間だ。即決あるのみ。そして・・・ こんなときには大きな利益を期待してはいけない」


ロレンスは、ミローネ商会の力を借りて、ホロを奪取した。
しかし、逃げ切れず、追い詰められたとき、ホロが真の力を使う。
全てが終わり、商売は成功裏に。
しかしロレンスは、傷つきミローネ商会内で看護されていた。

「予想外のできごとというのは良いほうにも起こります。こちらを」
ロレンスはマールハイトの差し出した二枚目の書類を受け取り、そこに書かれている短い文字に目を通す。
その直後、ロレンスは驚いて再びマールハイトのほうを見た。
「メディオ商会はよほど特権が欲しかったとみえます。それに、価値が下がるとわかっている銀貨を集めてもいたのですから、それは負債を抱え込んだのと同じです。確実に儲けが見込める特権を用いた商売がどうしてもやりたかったのでしょう。向こう側から即決の値段を提示してきましたよ」
ロレンスの手元にあった書類には、特別利益の分け前としてロレンスに銀貨千枚を贈呈すると書かれていたのだ。 (p.318-319)

「ミローネ商会が王との取引をまとめてしまうと、今度は時の利益が、メディオ商会からミローネ商会へ移動する。うん、交渉の途中で時の利益が移動すると、それからの交渉は劇的に変化するよな。メディオ商会が折れて、ミローネ商会にとって魅力的な条件を提示するのは、いわば当然だな」
「僕も昔一度だけ、従前の契約にない特別な利益をもらったことがある。(形式的にはその金額分の契約を再締結したのだけどね) ロレンスのように莫大な利益ではなかったけど、それでもかなりの金額だった。会社業績に貢献できて、とてもうれしかった。そして相手の会社にとても感謝した。その会社とは今も取引が続いていて、とても大事なお客さんなんだ」




人気シリーズだしね・・・
面白いと思います。
ただどーしてもひとつだけ言いたい!

Wikipedia」には、14世紀ごろのドイツがモデルになっているって書いているのだけど、そしてそれは「狼と香辛料ノ全テ」が原典だということなんだけど・・・

ジャガイモは新大陸原産で、ヨーロッパに伝わったのは大航海時代がはじまってから、だいたい15、16世紀なんだよう。
トウモロコシも同じだし。
そして、ラム酒も、カリブで作られたのが最初だって言われているし。
だから、大航海時代を頭でなくって胃袋で理解している僕としては、どうもこの小説のモデルは16世紀ごろに思えるんですよぉ〜(笑)