(スーパーダッシュ文庫)「一天四海のマーガレット」感想

一天四海のマーガレット―80日間世界一周 (集英社スーパーダッシュ文庫)一 天四海のマーガレット―80日間世界一周 (集英社スーパーダッシュ文庫)
著者:北沢 大輔
販売元:集英社
発売 日:2010-01-22
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知らない国への興味、空想、冒険。
男の子の、らしい夢だと思う。僕はずっと冒険に憧れていた。

一番昔の記憶が残っているのは、3歳の時の記憶だ。
僕の住んでいたアパートは、6畳と4畳半の部屋に2畳ほどの台所がついていた。水洗便所であったが風呂は無い。母親に連れられて2日に1度、近所の銭湯にいく。

アパートは鉄筋3階建てで3階に住んでいた。父と母と祖母と3歳の僕。狭かった。押入れのふすまに穴を開け、そこから押入れに入る。
部屋にはいつも人がいたから、そこだけが僕が一人でいることができる場所。身体の小さな僕だけが入ることができる秘密基地だ。しばらく一人遊びをし、飽きると秘密基地から部屋へ出て外を見る。

北側の4畳半の部屋の窓からは空港の滑走路が見える。毎日3便、昼に大阪行きが1便、朝と夕方に福岡行きが2便飛ぶ。
夕方福岡から来たフレンドシップが空港に降り、飛び立つまで、それを見ながら祖母と散歩するのが日課だ。ぶーんというプロペラの音が聞こえ始 めると家をでる。そして遠くから高翼の独特の機体が降りてくる。

飛行機に乗ると、遠くへ行ける。僕は遠くへ行きたかった。

幼稚園に入る前に引っ越した。
幼稚園までバスを乗り継ぎ1時間かかる。家のとなりが幼稚園なのに遠くへ行くことになった。「大変だね」と近所の人は言う。いや、そんなことはない。毎日街に行ける。遠くに行ける。毎日バスに乗れる。でも小学校にあがるころには、それも日常になってしまった。

帰りのバスに乗ると、寝台特急が見える。
東京行きだ。あれに乗ると、明日の朝には東京に着く。
乗りたい。東京に行きたい。

帰りのバスは登り道を上がる。そして遠方に海が見える。「もしかして四国が見えるかも」 目を凝らす。今だったらわかるが、見えるはずがない。それでも見えた気がした。

アポロ11号が月へ降りた瞬間をテレビでみた。アームストロング船長がなにかわからない言葉を言った。ロケットに乗って月に行ってみたくなった。

学校の図書館から何度も同じ本を借りて帰る。
ロビンソンクルーソー、宝島、地底探検、海底二万マイル、アポロ11号の物語、シャーロックホームズ、そして80日間世界一周

遠くへ!
未知の世界へ!

この本は、正しく80日間世界一周のリメイク版だ。
ロンドン、ドーバー、カレー、パリ、トリノ、ブリンディシ、スエズボンベイ、そしてカルカッタへ。
ああ、冒険だ。この本のページをめくるたび、新しい世界が目の前に現れてくる。
読みながら、小さかった頃の記憶が蘇ってきた。



(お知らせ)
わかつきひかるさんのスーパーダッシュ文庫の新作「そだてて! まりあ!」は3月25日発売になりました。