[]書評「その日彼は死なずにすむか?」

その日彼は死なずにすむか? (ガガガ文庫)その日彼は死なずにすむか? (ガガガ文庫)
著者:小木 君人
販売元:小学館
発売日:2009-06-18
おすすめ度:4.5
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主人公の鋼一は17歳で死にました。(ち〜ん)

当然、エピローグで終わるわけもなく、主人公が死んだあと、マキエルという猿に似た進行役(天使なんだろうか?)がでてきて、鋼一を7年前、10歳のときに戻します。
もう一度10歳から17歳までのやりなおしをしたのち、死んだ時と同じ行動をとって、2度目の死を迎えるか、それとも生き延びるか、それを試すゲームなんだということです。生き延びる方法は、7年間の間に奇跡のかけらをすべて集め終わること。奇跡のかけらがなにか、いくつあるかは伏せられています。

ストーリーを書いちゃうと、この作品をこれから読もうという人のじゃまになっちゃいますね。そしてたぶんこの物語のよいところは、ストーリーじゃないんですよ。いや決してストーリーが面白くないと言っているわけではなく、ストーリーは十分面白いのだけど、ストーリーの面白さがこの作品を評価するポイントではないということです。

この作品のテーマは勇気。全てを捨てる覚悟で前に進む勇気。

1度目の人生では、話しかける事もできなかったヒロインに、主人公は勇気をもって話しかけます。ヒロインは、スウェーデン人の父親と日本人の母親との間に生まれたハーフ。金髪碧眼のとても目立つ女の子です。高嶺の花っていう言葉は、こんな子のためにあるんじゃないでしょうか? 遠巻きに美しい花を愛でるようにこんな女の子を見つめる。いや、こんな経験って大抵の男って持ってない?
そんな女の子に友達になってほしいとか、恋人になってほしいとか、勇気を持って、直接話しかけてきたっていう人、そんなに多くないんじゃないでしょうか。

そう、主人公はやり直しの人生で、勇気をもって話しかけていきます。一歩、前へ出る。その一歩こそ、今の状況を変えるために一番大切なことなのだ。作者はこの作品を通じ、読者として想定している少年少女たちに、愛情を持って伝えようとしています。その作者の気持ちが、もう十分薹の立った僕のような中年男の心もうつのです。

いや、ね・・・ 勇気を持って一歩を踏み出せないのは、かえって歳とともにいろいろと捨ててきた、そしてそれが成長だと勘違いをしている僕のような大人(中年)じゃないか。
若いということは、踏み出すことだよね。たしかに頼りなげだけど、でも昔から頼りなげなのは一緒だと思う。実は、今の若者は・・・って思いがちな人間こそ、踏み出すことができない、いや、いろんな理由をみつけて踏み出そうとしない愚か者なのかもしれないよ。

ストーリーは、ほろ苦く、甘酸っぱく、そしてふんわりと甘い、そんなローティーン時代のとても幸せな物語です。ええ、とても幸せな気持ちになります。
でもね、僕のような愚か者には、少し切ない、そんな気持ちにさせられる作品でもありました。


作者は新人ということですが、次作を期待しています。