(ティアラ文庫)「海賊と姫君」感想

海賊と姫君―Eternal Lovers (ティアラ文庫)海賊と姫君―Eternal Lovers (ティアラ文庫)
著者:花衣 沙久羅
販売元:プランタン出版
発売日:2009-08-03
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「脱げ」
男の声は低く、抑揚があり、命令することに慣れた者特有の傲慢さを伴っていた。
マディーナは思わず耳を疑う。脱ぐ? 服を? まさかぜんぶ?


プロローグの冒頭から、いきなりクライマックスのような展開です。主人公(ヒロイン)のマディーナは隣国の謀略により父母兄弟を殺され、ただ一人生き残った弟と一緒に港にいた3本マスト、ラティーンセイル(三角帆)のガレー船に逃げ込みます。


ガレー船の絵ってあまりないですね〜 3本マストのラティーンセイルだとこの模型しかみつからなかったのですが、こんな感じでしょうか)



密航がみつかって艦長室に連行されたのですが、その船は海賊船で・・・
そういったわけで、冒頭の場面からはじまるのですよ。

この作者はストーリーを作るのが巧みだと思います。
ツカミはとても大事だと思います。そこでティアラ文庫ティアラ文庫たる所以を、最初から惜しげもなく投入! そのあとのストーリーで読ませる自信がないとこうはできません。

冒頭の乙女の危機は、その後裸にされ鏡の前に立たされるなどかなり際どいシーンに展開し、かなり読者もドキドキさせられるのですが、行為の途中で戦闘に巻き込まれ未遂に終わります。(残念? それともほっとする?)
そして、船での戦闘シーンは、一転、姫君の事情、隣国の謀略による悲劇へと展開します。母の死と兄の献身、そして弟を伴った逃避行の話は緊張感に富み、読者は姫君にぐっと惹き付けられます。どうか無事に逃げおせて、そう思わさせます。(でも、そのあと乙女の危機を迎えるのですがね)

そして、船の戦闘も終わり、弟の密航も見つかり、絶体絶命の状況になった主人公(ヒロイン)は、再度海賊の船長と対峙します。
再度やってきた乙女の危機。そして圧倒的な存在感を持つ船長によってロストバージン。息もつかせず2度目の行為に移り、そのときには感じさせられてしまう。この海賊の船長の圧倒感、威圧感が十分に伝わってきます。

ここまでで物語はだいたい4分の1ぐらい。
十分練られたプロットの巧みさが際立っていると思います。
この後、翻弄され奪われる存在なだけだった主人公(ヒロイン)は、さまざまな試練によって自覚を持ち(精神的に)強くなります。
そして、海賊の船長との間に真の愛が芽生え、互いに大事に思う対等な存在として、2回目のセックスに至る。

少女小説だとこれで終わりそうなものですが、この海賊と姫君は、これで終わりではありません。姫君は大事な恋人をおいて、一人自分の義務を果たしに行きます。試練によって真に強い女性に成長したのですね。

うん、とても面白かった。ひとつひとつの場面もとても(ビジュアル的に)美しく、よくできた映画を思わせるような作品です。
ティアラ文庫売り物のセックスも、(2回そういった描写があるのですが)それもストーリー展開上必要なものです。1度目は圧倒、被虐の感情を読者にもたらしますし、2度目は真の愛情を感じさせます。

さらに、この作品は、主人公(ヒロイン)の姫君の成長譚でもあります。そして、義務を果たしに行った姫君の前に、最後のどんでん返しが・・・
この作品は、とてもよくできた、大人向けのシンデレラストーリーでもあります。
読み終わって、とても幸せな気持ちになりました。




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