[]書評「桜の下で会いましょう」

桜の下で会いましょう (HJ文庫)桜の下で会いましょう (HJ文庫)
著者:久遠くおん
販売元:ホビージャパン
発売日:2009-08-01
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暖かく穏やかな、美しく、透明感のある情景。独特の世界を描く作者だと思います。

物語は、主人公の涼(♂)と、翼(♀)がふとしたはずみで、桜花のいる世界へ迷い込む事からはじまります。
桜花の住む世界は、結界で守られています。錬金術によって人の形につくられたもの・・・ホムンクルス・・・、それが桜花の真実です。
桜花は、結界で守られた世界でしか、生きられないのです。

なんとか桜花を人にして、人の住む世界で生きさせたいと願った桜花を作った亡き錬金術師の思い。涼と翼と桜花のほのぼのとした温かい交流、そしてだんだんと深まる涼たちの願い。それを利用して、自分の死んだ彼女を生き返らせたいと付けねらう、悪の道に染まった一夜という錬金術師。一夜を追う千鶴という錬金術師。

物語は、登場人物たちのさまざまな思いが交叉しながらすすんでいきます。除々にあきらかになる真実は、決着をつけるための最後の戦いへの道しるべです。うまい話の運び方だと思いました。
悪(一夜)と、善(主人公たち)との戦いは、人の魂を喰らって強大な力を得た一夜が圧倒します。しかし、最後には涼の英雄的な行動により、ついに撃退しますが、その代償がありました。

女の子たちのけなげな行動が心地よいですね。そして男らしい涼の行動も、胸がすく思いがします。

良い意味で、とてもベタな、ヒーロー物語です。ヒロインたちもけなげで優しく、3人が3人とも、とても魅力的です。
じっくりと丁寧に書きこんだ、良作だと思いました。


追記
「ああ、これで飯が食えるわ」
あとがきの冒頭の文ですが、作者さん、よかったですね。
1作だけでは、食べ続けることはできないでしょうが、それでも美味しいものが食べられたのではないでしょうか。
厳しい世界だなと思います。
貧乏でひもじかった時のことを、よい思い出にできるよう、がんばってください。