(ティアラ文庫)「ウェディング・オークション」感想

ウェディング・オークション―その香りは花嫁を誘惑する (ティアラ文庫)ウェディング・オークション―その香りは花嫁を誘惑する (ティアラ文庫)
著者:仁賀奈
販売元:フランス書院
発売日:2009-12-03
クチコミを見る

この本の説明は、一言でできそうです。

「女性向け官能小説」

構成は、驚くほど「男性向け官能小説」に似ています。
男性向け官能小説は、大体5〜8章の構成で、1章に1回以上セックスシーンを書き、ストーリーは必要最小限に抑えている、こんな特長をもっているのですが、この「ウェディング・オークション」も同じ特長を持っています。
全部で6章、ただし1章はやや長めのプロローグといえる構成なので、実質的には5章+プロローグという構成と理解しました。

つまり「官能小説」というのは、男性向けであろうと、女性向けであろうと、同じように作るものなんだなと分かり、僕にはとても興味深かったですね。

官能小説の肝は、エロ。
この小説が想定している読者は女性ですから、いかに読者の「性的興奮のスイッチをいれるか」が、この小説の評価ポイントとなるでしょう。

男性向けの場合、ポイントは女性の感じている様をどう書ききるかということなんじゃなかろうかと僕は思っています。(異論も当然あると思います) だから、読んだ事がない方には意外かもしれませんが、女性視点の描写がわりと多いんですね。
主人公が、男性のアレを挿入して「気持ちいい〜」とかいう描写は、とても少ないんですよ。それよりも、男性のアレを挿入して、女性が「感じる〜」という描写になる。これが男性向けの特長ですね。

それに対して、この作品はどうでしょう?

女性向けだから、男性の「感じる〜」という姿が描かれている?
まあ、分かりきった事ですけど、そんなことはないですよね。
面白いなあと思うのは、女性向けでもヒロインが感じる様の描写が主体になっているということです。この部分は、実は男性向けの官能小説と同じなんですよ。
まあ、男性も女性も性的に興奮するポイントが似ている、それは女性の感じる姿だというのは、自然の摂理なのかもしれませんね。だからこそ、人類の生殖は上手くいき、これだけ隆盛を誇っているのかもね。

でも、当然差異はあります。
女性キャラが感じるポイントです。

まずは、お相手の男性キャラ(レナルド王子)とのキスや前戯、焦らされていたり、強引に弄ばれるシーンの描写が長く、その時のヒロイン、パトリシアの反応、嫌がりながらも感じていく様の描写がひとつの特徴だと思いますね。
それから、挿入後のシーンでは、レナルドの意地悪な言葉、それに感じるような描写が多いです。これが、この作品の一番の特徴かな。ヒロインのパトリシアは、レナルドの言葉に弄ばれ、恥ずかしがりながら、どんどん興奮していきます。レナルドはサドっ気が強く、対してパトリシアはこれは完全なM(マゾ)嗜好です。
ただ、言葉による陵辱というあたり、いかにも「女性向け」だなあと思いました。


一方、全然男性向けと違うのは、男性キャラの設定ですね。
男性向けの場合、男性キャラは平凡なキャラ設定が多いのですね。
それに対し、この作品、仁賀奈さんの男性キャラは、超人キャラです。まあ、男であったらこうありたいと思う資質だらけというか、男としては、「そんな男いるわきゃないだろ!」と拗ねたくなるようなキャラです。
(注)

・王位継承権を持つ。つまり権力と生まれとを兼ね備えていて
・甘く優しい美貌を持ち、女性を一瞬にして虜にしてしまい
・たくさんの女性から言い寄られ引く手あまたなのにかかわらず
・他の女性には見向きもせず、ヒロインにひたすら執着し
・時に嫉妬も隠さず拗ねたりするかわいいところを持ち
・時に強引にヒロインに迫り実にうまくリードし感じさせ処女を奪い
・言葉で苛めるのもうまく性戯にも長け官能に目覚めさせ
・ヒロインを翻弄しながらも真っ直ぐに愛し
・精力も体力も抜群。

わはは。すごいよね。

男として言わせてもらうと、「いやがるそぶりを示している女性を、強引に貫きながら、官能を高め、言葉で苛める」って、二律相反ぽいことをしなければならないので、難易度高いのですよ。

相手がいやがるそぶりをするからって萎えちゃだめなんですよ。自分の高まりはある程度維持しないと挿入できないでしょ? そういった意味で加虐性がないといけないのだけど、でも相手の官能を高めようとすると女性をよく観察して自分の感情はコントロールしないといけない、つまり冷静でなくちゃいけないわけ。
一方手と腰は常に動かしているから、頭の中はどう動かすか一生懸命に考えているはずなんだけど、そんな中で上手な言葉を見つけて相手を苛める。ね、すげー難しいんですよ。
自分が興奮しすぎると終わっちゃいますしね。
この男(レナルド王子)、相当の経験者だって、きっと。
だけど、純愛で一途なんだ・・・ それに精力絶倫・・・

ね、男ってわりと大変でしょ?
だから、もしパートナーがいる人だったら、少々うまくなくたって「上手」ってほめてあげたらいいんじゃないかな? きっと喜んでがんばると思うんだけどね。
そうしたら、いつかはレナルド王子のようになるかもです。


さて、長くなったからまとめましょう。

この作品は、妄想好きな女性のための官能小説です。
でも、純愛でシンデレラストーリー。
よく作っていますよね。
おすすめです。




(注)
女性ものの場合、主人公の女性キャラは、平凡な設定になることが多いですね。この作品でも、市井の時計屋の娘の設定ですしね。
読者にとって同性の主人公は、自分をその主人公に投影する事が多く、そのため出来る限り平凡な要素を入れるのが、こういった小説のセオリーなのだと思います。