(スーパーダッシュ文庫)「パパのいうことを聞きなさい!」感想

パパのいうことを聞きなさい! (集英社スーパーダッシュ文庫)パパのいうことを聞きなさい! (集英社スーパーダッシュ文庫)
著者:松 智洋
販売元:集英社
発売日:2009-12
おすすめ度:5.0
クチコミを見る

迷い猫オーバーランを書いた作者さんの新たなシリーズです。
まずはあとがきを引用します。

(引用はじめ)
そして『パパのいうことを聞きなさい!』は、『迷い猫オーバーラン!』を好きになってくれた読者の皆さんに楽しんでいただけるように、『迷い猫オーバーラン!』が苦手だと思った方々にも面白いと思っていただけるようにと気持ちを込めて書いた物語です。
(引用おわり)

「そうなんだ・・・ でもどういう人が『迷い猫オーバーラン!』を苦手というんだろう?」というのがこの文章を読んでまっさきにわいた疑問です。
それでアマゾンの書評を読むと・・・

迷い猫オーバーラン!』を批判している書評の内容は大きく分けると2つかな。
1.文章が三人称になったり一人称になったりしてわかりにくい。
2.キャラと設定になじめない。

1.はね、たしかに指摘されたところをみると、最初三人称なのが一人称に途中から変わっているので、正しい指摘のように思えます。でも全体的には基本一人称に思えるのだけどね。時々三人称の視点になることもあるので、それがわかりにくいということのようです。
まあ、小説書きの技術的なものですが、僕はあまり気にせず読んでしまいました。
2.については・・・
たしかに、「二度死ね〜」とのたまい、暴力をふるうヒロインが好きになれるかどうかは、好みが分かれるでしょうね。
あと、梅ノ森学園の「返済義務のない奨学金で無償教育実施」「気まぐれで運営・管理している」という設定ですよね。うーん、これはなかなか浮世離れしていますけどね。でも、だからこそ、孤児である主人公たちが通うことができるわけですよ。

あれ、この感想、『迷い猫オーバーラン!』の感想みたいになっていますね(笑)
いえ、なんでこう書いたかというと、この『パパのいうことを聞きなさい!』ですが、やはり同じ作者さんの作品だけあって、同じ傾向はあるみたいだなと思ったからです。
まずは設定・・・
・主人公は両親を亡くし、姉が一人で育てている。
・その姉が娘を持つ男と結婚し、一人の娘をもうける。
・そして、姉とその夫が海外に出かけたとき、飛行機事故で姉夫婦は行方不明になる。
・主人公(19歳)は、残された三姉妹を引き取り、保護者になる。

荒唐無稽?
そう思ったら、この作品はたぶん好きになれないでしょう。
でもね、僕は、魔法とか超能力とか使い魔とかの方が荒唐無稽な設定に思えます。でも、それだからといってそういう設定のライトノベルがだめなわけじゃないですよね。

確かに設定にはちょっと無理がありますけど、それは、中学生、小学生、幼児という血のつながらない三人姉妹との同居生活というシチュエーションを作るために、なんとかつじつまあわせした設定のように思います。
この物語は、普通起こりえない「血のつながらない三人姉妹との同居生活」のどたばたに面白みがあるんですよね。
だから僕はこの設定の無理さには、目をつぶりました。

この物語には、魔法も超能力もバンパイヤもでてきません。
あとは普通の学園生活の物語・・・
あとは普通に起こりそうな出来事の連続です。
でもね、面白いんですよね。
売れているようです。発売後1ヶ月で2刷になったみたいですし。

松さんという作家さんは、ツンデレが大好きなんでしょう。迷い猫も、この作品もメインヒロインは、かなりのツンデレ
そして、ロリキャラ。
頼りになる、ちょっと暑苦しい男友達。
さらに、ちょっと不思議系のお姉さんキャラ。
そんな典型的なともいえるキャラ布陣が、松さんの作品の魅力だと思います。

そして、軽妙なキャラ同士の掛け合いが、この作品の肝です。
ストーリーもあるにはあるんですけど、ストーリーそのものより、いろんなドタバタが起こりながら、ちょっとわくわくする感じ、それがいいと思います。

特に・・・
メインヒロインのツンデレキャラって、やっぱり嫉妬してもらわないと魅力的じゃないですよね。この作品の嫉妬の相手は、とても美人でスタイル抜群でちょっぴり不思議系なお姉さんキャラ、色っぽい莱香さん。
メインヒロインは、女子中学生ですもの。色っぽさでは対抗できないのは承知のうえで、背伸びしながら、張り合う姿がかわいいです。
そして、主人公はよくあるパターンですけど、メインヒロインの空ちゃんの気持ちには全く気づかず・・・
そんなわけで、
「俺と代わってくれ〜」
読者にそう思わせきったら、もう作品の成功は約束されたようなもんですよ!

ええ、べたなんよね。でもそれが欠点にならないのは、それぞれのキャラ同士の会話がとても活き活きとしているからでしょう。それがこの作者さんの特長だと思います。

そして、もうひとつ気づきがあります。

迷い猫オーバーラン!』も『パパのいうことを聞きなさい!』も、主要な登場人物は、孤児なんですよ。
そして、血の繋がらない孤児が集まって(この作品の場合、三姉妹は片親の血は繋がっていますが)、家族をつくろうと努力する、それが裏のテーマとして一本の筋を通しています。
なぜ孤児なのか?はよくわからないのですが、なにか作者さんの思いいれがありそうな感じです。
全体的には明るいどたばたコメディなんですけどね。その中に、家族というテーマをまぜて、ちょっぴりなにかを考えさせる、そういった作品でもあると思いました。